言わずと知れた心霊現象の代名詞
「こっくりさん」
子供から大人まで、
自分でチャレンジしたことはなくても
聞いたことくらいなら、
ほとんどの人がありそうですよね。
降霊術と信じられており、そのため漢字で表すと「狐狗狸さん」となります。
そして、
「こっくりさん」の現象を、
今から百年以上前に
解き明かそうとした人物がいました。
―遊び方―
まず「はい、いいえ、鳥居、男、女、0〜9までの数字、五十音」を記入した紙を机に置き、その紙の上に硬貨を置いて参加者全員の人差し指を添えます。
全員が力を抜いて「こっくりさん」に呼びかけると硬貨が動きます。質問をしてみましょう。
硬貨が動いて、止まった場所の文字を読んでいきましょう。
最後に「お帰りください」とお願いし「こっくりさん」には帰ってもらいます。
「こっくりさん」は、みんなでお願いすれば大抵のことは教えてくれるナイスガイです。
遊んでいる途中で硬貨から手を離すと呪われるルールだったり、「エンジェルさん」の場合は鳥居ではなく天使を描くなどの派生パターンや細かい違いがあります。
1970年代には漫画の影響で、少年少女を中心としたブームになったそうです。
当時は生徒への精神的な影響や、危険があるとのことで社会問題に発展し、禁止する学校もあったほどです。
―発祥―
そんな、「こっくりさん」ですが実は日本発祥ではありません。
1884年に伊豆半島に漂着したアメリカの船員が、自国で大流行していた『テーブル・ターニング』を地元の住民に見せたことをきっかけに、各地の港を経由して日本各地でも流行するようになりました。
この『テーブル・ターニング』の起源はかなり古く、あのレオナルド・ダ・ヴィンチの自著に記述が見られることから15世紀のヨーロッパにはすでに『テーブル・ターニング』が存在していたと考えられています。
そして、1800年代に流行した『テーブルターニング』は数人でテーブルを囲み、手を上に乗せると、テーブルがひとりでに動き出すというものでした。
今とはかなり違っていますね。
その後、1892年にはアメリカの玩具メーカーから『ウィジャボード』という文字盤まで発売され、この頃には現在の「こっくりさん」とほぼ同じ形が出来あがっています。
そしてこのテーブル・ターニングの解明に乗り出したのが哲学館(現在の東洋大学)創設者、井上円了(いのうええんりょう)です。
彼は、哲学者でありながら妖怪博士とよばれていました。
―哲学者、井上円了―
井上円了は1858年、新潟県長岡市の慈光寺に生まれています。
多様な視点を育てる学問としての哲学に着目し、哲学館(現在の東洋大学)を設立した人物でもあります。
そしてお寺の生まれということもあり、幼い頃から妖怪の伝承に親しみ、自著の中には「誰もいないところから足音が聞こえた」「障子の向こうから覗かれている気配を感じた」と回想しています。
哲学者として著名な円了でしたが、いわゆる妖怪研究を批判的に行った人物としても知られています。
『妖怪学』『妖怪学講義』などでそれぞれの妖怪についての考察を深め、
当時の科学では解明できない妖怪を「真怪」
自然現象によって実際に発生する妖怪を「仮怪」
誤認や恐怖感など心理的要因によって生まれてくる妖怪を「誤怪」
人が人為的に引き起こした妖怪を「偽怪」と分類しました。
例えば仮怪を研究することは自然科学を解明することであると考え、妖怪研究は科学の発展に寄与するものという考えに至ったのです。
―解明―
円了は「こっくりさん」解明のために被験者を年齢、性別、性格などに分け、とにかくたくさんのデータを集めました。
そして膨大な結果の中から、1つの真実を導き出しました。
円了は、感受性が強く「こっくりさん」を信じやすい被験者のときに硬貨が動きやすいことを発見します。
このことから、円了は「こっくりさん」を『予期意向(潜在意識)と不覚筋動とよばれる無意識的な筋肉の動き、この2つの合わさった現象である』と定義しました。
それから百年近くが過ぎます。
―「特命リサーチ200X」―
1990年代にスタートしたテレビ番組の『特命リサーチ200X』の中で小学生を参加させた検証が行われました。
その結果、信じている人の班だけの硬貨は動き、信じていない人の班は硬貨が止まったままでした。
さらに、日本の首都や人気野球選手の背番号といった質問では十円玉が正答を指し示しましたが、簡単な英語での質問や過去のアメリカ大統領名など、本人達の知識を超えた問い掛けには紙の上を迷走するだけでした。
また、被験者の小学生の視線の動きを観察したところ、質問を聞いた際、硬貨の動きに先行して回答となる語句の文字を目で追っていたことがわかりました。
―妖怪博士の伝えたかったこと―
それでは何故、円了は「こっくりさん」を解明しようと考えたのでしょうか?
そこにはこんな想いがありました。
当時は今では考えられませんが、妖怪やお化けが、とても人々の生活に密着していました。
そのため、わからないことや不思議なことが起こると大体が『妖怪の仕業』になっていたのです。
例えば病気を妖怪のせいにして、医者にもかからず御札を貼るだけで治ると信じ、死んでしまった人もいましたし、
「こっくりさん」を使った犯罪や詐欺も横行していました。
「わからないことはわからないままでいい」という考え方の人が多かった時代、それによって死んでしまう人や、騙されてしまう人がいた事。
だからこそ『自分で考える事の大切さ』を妖怪学を通じて広めていきたかったのでしょう。
苦しんでいる大衆を救いたかったからこそ、謎や、疑問に思ったことを超常現象のせいにはせず、自分で解き明かそうと考えたのです。
ただし、円了は超自然的な現象や妖怪のすべてを心の投影と断じているわけではありません。
円了は、人々が漠然と「妖怪(お化け)=怖い」としていたものを、何が原因でどういう仕組みで恐怖を感じるのか分類しました。
そしてそれを自著『妖怪学講義』にまとめました。
そしてこの『妖怪学講義』は明治天皇の愛読書となります。
色んな質問に答えてくれる「こっくりさん」はもちろんナイスガイですが、
それを解き明かした井上円了も、とってもナイスガイですね。
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