1964年、海底の写真を撮影するためにトローリングを行なっていたアメリカの海洋調査船USNSエルタニン号の調査隊は、ケープホーン西側の海底を調査している際に奇妙な形をしている物体を発見することになります。
水深3904メートル地点で撮られた写真には、海底に突き刺さったアンテナらしきものが写っていました。
その写真は1964年9月5日のニュージーランドヘラルド紙にて“海底からの不思議な写真”と題され、世界ではじめて公表されることになります。
そして、このニュースはすぐに世界中に広まり、その物体の正体について多くの噂が流れることになっていきました。
噂は船の落下物説や地球外からの飛来物、未知なる文明の遺物説まで様々であり
著名な作家までが自説を発表する自体になっていきます。
写真を撮影したエルタニン号に乗船していた生物学者は、「数ヶ所で枝が伸びる物体の正体は植物では」と推測しましたが、深海の海底に光が届かないという理由で否定されています。
「機械の部品やテレビのアンテナが船から落下した部品では」との主張に対しては、部品が海流の不安定な深海海底でも壊れることなく立っていることなどあり得ないと反論されてしまいました。
そのうちに、「アンテナは宇宙人の遺物である」と提唱するUFO愛好家まで現れました。
その後ゆっくりと時は過ぎていき、人々の記憶からもこの出来事は薄れていきました。
そして2003年、水中音響学者のトム・デマリィが、1960年代当時エルタニン号に乗船していたA.F. アモスにこの物体について照会したところ、アンテナのような物体はアンテナなどではないことがわかりました。
この物体はすでに1971年、Bruce C. Heezen とCharles D. Hollisterによって『Cladirhiza concrescens(ごく小型の動物を捕食するカイメンのひとつ)』という学名で記載されていることが発覚したのです。
このHeezenとHollisterの本には、エルタニン号が撮影した写真と並んでスケッチも掲載されていました。
そのスケッチは1888年に海洋魚類学を専門としていたアレキサンダー・アーガシーという人物が記した航海記『Three Cruses of the Blake』に掲載されていたスケッチと一致します。
この写真に写っていた物は、すでに1888年には発見されていたのです。
こうして、この物体は約40年の時を経て、非常に奇妙な形状をしているものの自然界の産物であることが明らかになりました。
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